孤独のグルメ

 

孤独のグルメといえば、バブルど真ん中の頃から日常グルメに着目していた原作者久住さんが、ストイックで緻密な作風の谷口ジローさんと組んだことで奇跡的な化学反応を起こし、いつもの軽薄さは何処へやら妙な風格や意味ありげで文学的な空気さえ漂わせるように感じてしまう怪作となったマンガです。掲載誌はあっさり廃刊して短命に終わったものの、知る人ぞ知る作品として好事家に支持されてました。

幻の作品となるも、「主人公が食堂の店主にアームロックをかける漫画」としてネット界隈でネタにされて話題になり、カルト的な人気を博します。その後まさかのドラマ化で大ブレイク、漫画界テレビ界入り乱れた日常グルメブームの火付け役となったのは記憶に新しいところです。
久しぶりに読んでみたんですがやっぱり面白いですね。傑作とか名作と呼ぶような作品ではないんですが、グルメ漫画史の中であれば歴史に残る作品だと思います。

「おっさんが外でメシ食ってるだけの漫画」ていうのは、この作品のファン・アンチ双方が「だからつまらない」「だが、そこが良い!」と、そのポイントとしてあげるところですね。実際、オーダーの組み立てがどうのこうのという今でいう「食の軍師」的な展開や、食事シーンや料理の感想を丹念に描く食レポ的なノリは少ないんですよね。本当に外で食事するだけで完結しているエピソードもあります。
ただ、ひと口に外食と言ってもチープな公園の食堂やデパート屋上や球場の売店、ベタな観光客向けの食堂や車内での駅弁、仕事場でのコンビニ飯に至るまで多様なシチュエーションでの一人メシ体験が展開されるわけです。食に対するコダワリやウンチクなどではなく「外で一人で食事をする」という行動そのものにスポットを当てているということでしょう。

食レポ要素の濃い回でもただメニュー紹介的に食べるだけではなく、行きがかりで普段入らないような店に入ってちょっとした非日常を味わったり、店のシステムにとまどったり、なめてた店が予想外に美味くて衝撃を受けたりといった、その店に入ることによって生まれるちょっとしたドラマがありました。
主人公の一人語りやボヤきの名台詞、オーダーの組み立ての拘りや名物シーンのアームロックも、本来その中で生まれた一要素に過ぎません。
そういった副次的な要素がウケたせいで、その後へんな形で一人歩きしてしまいましたが、それらはあくまでいろどりであって、外での一人メシというシチュエーションから生まれる何気ない情景やゆるいドラマに、なんとも言えない魅力があるのからこそ、いまだに何度も読み返すことができるのでしょう。
もちろん、それは谷口ジローさんという稀有な描き手の筆力によるところが大きいのは間違いありません。描き手によってはグダグダしたどうしようもない漫画になってい可能性も有ります。

短命にだったためかろうじて薄めの単行本にまとまる程度のボリュームですが、作者の他の作品を見るにとそのおかげで変なパターン化を逃れることができて幸運だったのかも知れません。